大人のASD女性の特徴と「あるある」|顔つきの噂・恋愛・カモフラージュを精神科医が徹底解説

「普通に振る舞おう」と頑張るほど疲れてしまう…。
その生きづらさは、あなたの努力不足ではなく「大人のASD(自閉スペクトラム症)」の特性かもしれません。
女性特有の「気づかれにくい特徴」と対策を、精神科の視点で解説します。
- 大人のASD女性の特徴は、主に5つ
①カモフラージュ(擬態)
②グループ会話の苦手さ
③感覚過敏(音・光など)
④強いこだわり/疲れやすさ
⑤対人関係の質的なズレ - 「HSPとの違い」は、主に 対人のズレ と こだわり の有無がポイント
- 「顔つき」で決めつけるのはNG(医学的に“特有の顔つき”が根拠になるわけではない)
- 当てはまるか不安なら、まず10のセルフチェック
→生活に支障があれば受診、必要に応じて公的支援も。
このあとの本文では、仕事・人間関係・恋愛で起きやすい「あるある」具体例で「あなたの場合」を照合し、HSPとの違いと受診の目安(チェック→相談の流れ)を整理します。
なぜ今まで気づかなかった?大人のASD女性に多い「見えにくい特徴」

女性は社会性が高く、無意識に特性を隠す「カモフラージュ(擬態)」を行いやすいことが、近年の研究で指摘されています(Autism in Women, 2023/Sex Differences in ASD, 2022)。
そのため周囲も自分も気づかず、診断が遅れやすい傾向があります。
また、女性は医療機関につながるまでの期間が男性より長く、診断年齢も高いことが報告されています(Ruggeri ら, 2021)。
仕事や育児の責任が増え、キャパオーバーになったタイミングで初めて特性が表面化し、受診につながるケースが増えています。
周囲に合わせようとする「カモフラージュ・過剰適応」

ASDのカモフラージュ(擬態)とは、社会に適応するために、無意識に他者の表情や話し方を模倣して振る舞う特性のことです。
最近のレビューでも、女性は表情や話し方を模倣して“普通の人”を演じやすいことが示されています(Autism in Women, 2023)。
・テレビや周囲の人の「普通の話し方・表情」を観察してコピーする
・本当は興味がない話題でも、相槌を打って合わせる
・辛い感覚(音や光)を我慢して、笑顔でやり過ごす
さらに、カモフラージュの負荷が大きいほど疲労や不安・抑うつが強まりやすいことも報告されています(Livingston ら, 2022)。
一見適応しているように見えても、水面下では白鳥のように必死で足を動かしている状態です。
この「過剰適応」が長く続くと、本来の自分が分からなくなり、ある日突然燃え尽きてしまうことがあります。

「性格」や「HSP」と間違われやすい理由
「私は神経質な性格だから」「HSP(繊細さん)だから疲れやすいんだ」と思い込んでいる方も少なくありません。
確かに「感覚が敏感」「人の顔色を気にする」といった点はHSPと共通していますし、ASD女性は感覚過敏や対人不安を抱えやすいことも報告されています(Autism in Women, 2023)。
一方で、ASDの背景には、「社会的コミュニケーションの質的な偏り」や「限定されたこだわり」といった神経発達症としての特徴があり、こうした点は国際的な診断基準(DSM-5など)にも明確に示されています(Sex Differences in ASD, 2022)。
「性格の問題」として片付けてしまうと、適切な支援にたどり着けず「努力が足りない」と自分を追い込む原因になってしまいます。
「もしかして私も?」と感じる人が通る典型パターン
大人の女性がASDを疑うきっかけには、典型的なパターンがあります。

・仕事の責任が増えた時
昇進してマルチタスクや部下の管理が必要になり、キャパオーバーする
・結婚・出産・育児
予測不能な子どもの行動や、ママ友付き合いに対応できずパニックになる
・子どもの診断
我が子が発達障害と診断され、特徴を見ているうちに「私とそっくりだ」と気づく
こうした「気づきの遅れ」は、女性のASDが見逃されやすいこととも関係しており、成人女性は男性より診断年齢が高くなる傾向が報告されています(Ruggeri ら, 2021)。
また、別の研究では、ライフステージの変化で「演じきれなくなる」ことで初めて特性が表面化しやすい点も指摘されています(Autism in Women, 2023)。
これまで見過ごされてきたのは、あなたが社会に合わせて必死に努力してきた証拠といえるでしょう。
「カモフラージュ」による疲れに気づくことが、自分を取り戻す第一歩です。
(ASDの医学的な定義について詳しくはこちら:[内部リンク:ASD(自閉症スペクトラム)とは])
【具体例】日常で感じるASD女性の特徴と傾向(コミュニケーション・感覚)
会話のキャッチボールの独特な「ズレ」や、五感の鋭敏さが、日常的なストレスの原因になっていることがあります。
「悪気はないのに相手を怒らせてしまう」「職場の些細な音が気になって仕方がない」といった悩みは、あなたのわがままではなく、脳の情報処理タイプの違いによるものです。
ここでは、特に相談の多い5つの特徴をご紹介します。
雑談やグループでの会話が苦手と感じやすい
1対1の会話なら問題なくても、3人以上のグループになった途端に「いつ話に入ればいいのか分からない」とフリーズしてしまうことはありませんか?
ASDの方は、言葉の裏を読むよりも、言葉通りに受け取ることが得意です。
そのため、目的のない「雑談」や、次々と話題が変わる「ガールズトーク」には強い疲労感を感じやすくなります。
「今の発言、変じゃなかったかな?」と後からひとり反省会を繰り返すのも、ASD女性の「あるある」と言える悩みです。

表情や声のトーンから感情を読み取るのが難しいことがある
「顔色をうかがう」こと自体はしていても、相手が本当にどう思っているかを直感的に察するのが苦手な場合があります。
・冗談や皮肉を真に受けてしまう
・相手が退屈しているサイン(時計を見る、生返事など)に気づかず、話し続けてしまう
・「怒ってる?」と聞かれて初めて、自分の表情が硬かったことに気づく
これらは、非言語コミュニケーション(言葉以外の情報)を自動処理する脳の機能が、定型発達の人とは異なるために起こります。
光や音、匂いが気になりやすい「感覚の敏感さ」
ASDの方の多くが、五感のいずれか(あるいは複数)に感覚過敏を持っています。
| 聴覚 | カフェのBGM、換気扇の音、咀嚼音 | 会話に集中できず、頭痛がする |
|---|---|---|
| 視覚 | 蛍光灯の白い光、商品陳列の色彩 | 目がチカチカしてひどく疲れる |
| 触覚 | ニットのチクチク、洋服のタグ、特定の素材 | 痛くて着られない、集中力が削がれる |
| 嗅覚 | 他人の柔軟剤、香水、食べ物の匂い | 電車内などで気分が悪くなる |
| 身体感覚 | 生理前の不調や痛みに過敏になりやすい | 感情のブレーキが効かなくなり、パニックや癇癪(かんしゃく)を起こしやすい |
周囲には「気にしすぎ」と言われがちですが、本人にとっては「耐え難い苦痛」であり、外出を億劫にさせる大きな要因です。

興味やこだわりが特定の分野に集中しやすい
「好き」のエネルギーが一点に集中するのも大きな特徴です。
一般的な流行には疎くても、自分の好きなアニメ、アイドル、動物、特定の学問などについては、寝食を忘れて没頭します。
この「過集中」は、仕事や創作活動において素晴らしい成果を生む才能の源泉でもあります。
一方で、興味のないことには全く手が動かなくなるため、日常生活でのバランスを取るのが難しくなることもあります。
【噂の検証】ASDに特有の「顔つき」はある?医学的根拠と誤解される理由
ネット検索で「ASD 顔つき」と調べると様々な情報が出てきますが、ASD特有の顔つきや身体的特徴は、医学的に存在しません。
それなのに、なぜ「特徴がある」と言われることが多いのでしょうか?
精神科医の視点で解説します。
今雪院長実際は、顔の造りそのものではなく、表情筋の使い方や視線の合わせ方が独特な印象を与えていることが多いです。
表情が乏しい
感情が表に出にくく、クールあるいは無愛想に見える(能面のような印象と言われることもある)
視線が合わない
話す時に目を合わせない、または一点を凝視しすぎる
年齢不詳な印象
化粧気がない、あるいは表情の無垢さが『実年齢より幼い』印象を与える



これらはあくまで脳の特性による『動作や反応の結果』であり、生まれつきの顔立ちとは無関係です。
『顔を見れば診断できる』という噂に医学的根拠はありませんので、気にしすぎないでくださいね。
雑談の苦手さや感覚過敏は、あなたの「忍耐不足」ではありません。
自分の苦手なシチュエーションを知ることで、イヤーマフを使うなどの具体的な対策が立てやすくなります。
仕事・家庭・恋愛で直面しやすい「生きづらさ」とその背景
それぞれの場面で求められる「暗黙のルール」や「マルチタスク」が、ASD女性にとって高いハードルとなります。
職場では臨機応変な対応にフリーズし、家庭では家事の同時並行にパニックになり、恋愛では距離感が掴めず依存してしまう。
各シーン特有のつまづきポイントを整理します。
【職場】マルチタスクや報連相に戸惑いやすい
職場はASDの方にとって、最もストレスがかかりやすい場所の一つです。
・臨機応変
マニュアル通りなら完璧にできるのに、「状況を見て適当にやって」と言われると固まる。
・マルチタスク
電話を取りながらデータ入力するなど、複数の同時並行処理でパニックになる。
・報連相のタイミング
上司が忙しそうにしていると、いつ声をかけていいか分からず報告が遅れる。
真面目に働いているのに、「融通が利かない」「仕事が遅い」と誤解され、自信を失ってしまうケースがあるのはこのためです。


【家庭】家事や急な予定変更が大きなストレスになる
プライベートな家庭生活にも、つまづきポイントがあります。
特に家事は「料理をしながら洗濯機を回し、子供の様子を見る」という高度なマルチタスクの連続です。
また、ASDの方は「見通しが立たないこと」に強い不安を感じます。
「夕飯はカレー」と決めていたのに、家族に「やっぱり外食しよう」と言われると、たとえ楽しい提案であっても、予定が崩れたショックでパニック(メルトダウン)を起こしてしまうことがあります。
【恋愛】気持ちの伝え方・距離感の取り方が難しいと感じる
恋愛関係では、距離感の調節が難しくなりがちです。
✅依存と執着
パートナーが世界の全てになり、LINEの返信が少し遅れると見捨てられたと錯乱する。
✅ストレートすぎる発言
「その服、似合わないね」など、事実をそのまま伝えて相手を傷つけてしまう。
✅受動的すぎる
嫌われたくない一心で、理不尽な要求も全て受け入れてしまう(カサンドラ症候群の逆パターン)。
対等な関係を築くことが難しく、辛い恋愛を繰り返してしまうことも特徴の一つです。


頑張りすぎによる「二次障害(うつ・適応障害など)」のリスク
最も注意が必要なのが、二次障害のリスクです。
ASDの方は、過度な環境負荷や過剰適応が続くことで、うつ病や不安障害を併発しやすい傾向が報告されています(Autism in Women, 2023)。
これは特性そのものが原因というより、「できない自分」を責め、無理をして周りに合わせ続けた結果、心が折れてしまった状態といえます。
これらはすべて、「もうこれ以上頑張れない」という心と体からのSOSです。
もし今、眠れない・食べられないといった症状があるなら、発達障害の診断云々の前に、まずは休息と治療が最優先です。
ASD女性が持つ「強み」と自分らしい生かし方
ASD女性には、「圧倒的な集中力」「誠実なコミュニケーション」「独自の発想力」という3つの強みがあります。
苦手なことを克服するより、これらの得意を伸ばす視点が大切です。
ここでは、ASD女性ならではの4つの「才能」に焦点を当てて解説します。
好きなことへの集中力や探求心の強さ
ASDの方の最大の特徴は、興味のある分野に対する「圧倒的な没入」です。
この「過集中」は、研究職、プログラマー、アーティスト、校正作業など、専門性が求められる分野で大きな成果を生み出します。
周りが飽きてしまうような作業でも、楽しみながら突き詰められる力は、紛れもない才能です。
誠実で率直なコミュニケーション
「お世辞が言えない」「嘘がつけない」という特徴は、裏を返せば「誠実である」ということです。
駆け引きや裏表がないため、一度信頼関係ができると「この人の言うことは信用できる」と高く評価されます。
また、ルールを厳格に守る正義感の強さは、経理や法務、品質管理といった「正確さ」が命の仕事において、何よりの適性となります。
独自の視点やアイディアを発揮できる
「常識にとらわれない」ということは、「常識の枠を超えた発想ができる」ということ。
多くの人が「なんとなく」で済ませていることに違和感を持ち、「なぜ?」と問い直す視点は、新しい商品開発や業務改善のヒントになることがよくあります。
「みんなと同じ」が苦手な代わりに、誰も思いつかなかったユニークな解決策を提案できるクリエイティビティを持っています。
安心できる環境で伸びる特性と支援のヒント
ASDの女性がこれらの強みを発揮する条件は、「安心できる環境」です。
・否定されず、静かで集中できる場所
・指示が明確で、見通しが立っている状態
・「今のままでいい」と認めてくれる理解者
自分を責めるのをやめ、ご自身の「取扱説明書」を周囲と共有できたとき、生きづらさは「自分らしさ」へと変わっていきます。
あなたが「できないこと」を数える必要はありません。
「嘘がつけない」「こだわりが強い」という特性は、場所を選べば、誰からも必要とされる「誠実さ」や「専門性」という輝きに変わります。
パートナー・家族に「わかってもらう」ために|関係を良くする伝え方と工夫
パートナーや家族との関係を穏やかに保つ秘訣は、「察してほしい」を手放し、生活のルールを言葉で共有することです。
身近な存在ほど「言わなくてもわかってほしい」と期待しがちですが、曖昧なコミュニケーションはASD女性にもパートナーにもストレス源になります。
情報の伝え方を少しチューニングするだけで、驚くほど心が通いやすくなります。
言葉や頼みごとはできるだけ具体的に伝える
「ちゃんとして」「いい感じで」といった表現は、ASDタイプの方を混乱させてしまうことがあります。
大切なのは、相手が迷わずに動ける「具体的なアクション」を提示すること。
これを意識するだけで、お互いの認識のズレはぐっと減らすことができます。
▼ 伝わりやすい「具体的な言い換え」のヒント
| 伝えたいこと | 曖昧な伝え方(NG) | 具体的な伝え方(OK) |
| 家事の分担 | ✖「もっと私のことを考えて」 | 〇「体調が悪いから、夕食後の食器洗いを代わってほしい」 |
|---|---|---|
| 部屋の片付け | ✖「部屋をきれいにして」 | 〇「脱いだ服は、洗濯カゴに入れてほしい」 |
| 仕事の依頼 | ✖「いい感じにお願い」 | 〇「この書類を明日15時までに作成してほしい」 |
| ポイント | ✖相手に察してもらうのを待つ | 〇数値や行動で明確に指示する |
「数値」や「行動」で伝える習慣をつけると、認識のズレが減り、お互いにイライラすることが少なくなります。
感情より“事実ベース”のやりとりが安心につながる
感情が高ぶっている時の話し合いは、情報量が多すぎて混乱を招きがちです。
特に、相手の感情を読み取ろうとして脳がオーバーヒートしてしまうASD女性にとっては、感情論よりも「事実」に基づいた会話の方が安心感を持てます。
「どうしてそんなに冷たいの?」と感情をぶつけるよりも、「あなたがスマホを見ながら話すと、私は無視されているように感じて悲しくなる」と、「起きた事実」+「それによる反応」という形式で伝えてみてください。
論理的でドライに感じるかもしれませんが、事実ベースで話すことは、お互いの感情を守りながら建設的な解決策を見つけるための有効な手段です。
自分では気づけない「疲労サイン」を教えてもらう
ASD女性は「過剰適応」の特性により、限界を超えても頑張り続けてしまう傾向があります。
自分自身の疲れやストレスに鈍感になりがちで、気づいた時には倒れてしまうことも少なくありません。
そこで、パートナーや家族を「信頼できる観測者」にしてしまうのがおすすめです。
・「声のトーンが低くなっていたら、疲れているサインだから教えてね」
・「私がイライラし始めたら、いちど一人になる時間を提案してほしい」
このように、事前に頼んでおくことで、自分では気づけない「限界サイン」を客観的にキャッチしてもらえます。
「察して」はハードルが高いことを知っておこう
日本社会では美徳とされがちな「空気を読む」「察する」という文化ですが、これをプライベートに持ち込むのは、ASD特性を持つ方にとっては非常にハードルが高いものです。
「言わなくてもわかるはず」という期待は、一度きっぱりと手放してみましょう。
「言葉にしていないことは、伝わっていなくて当たり前」という前提に立つと、気持ちがとても楽になります。
「察してくれない」と嘆く時間を、「どう言葉にすれば伝わるか」を考える時間に変えることで、パートナーシップはより強固なものになっていきます。



「もしかして、自分にも当てはまるかも?」と感じた方は、次のチェックリストで確認してみましょう。
「私もASDかも?」と感じたときの10のセルフチェック
このチェックリストは医学的な診断ではありませんが、ご自身の「生きづらさの傾向」を客観的に整理するのに役立ちます。
特性を知ることは、「努力不足のせいではなかった」と気づき、自分を責める悪循環から抜け出す第一歩になります。
【日常生活編】片付け・ルーティンへのこだわり
- 急な予定変更や手順の変更があるとパニックになる
- 特定の音・光・匂い・肌触りが人一倍苦手で疲れる
- 物の配置や手順に強いこだわりがあり、崩れると辛い
- 距離感が掴めずよくぶつかる、または手先が極端に不器用
【対人関係編】集団行動や視線合わせの苦手さ
- 雑談や「世間話」が苦痛で、何を話していいかわからない
- 大人数の集まりは、楽しむよりも「擬態」に疲れて寝込む
- 会話中に相手の目を見続けるのが苦手(視線を逸らしたくなる)
【仕事編】臨機応変な対応・変化への抵抗感
- 口頭指示は抜け漏れしやすく、マニュアルや文字の方が理解しやすい
- 電話しながらの入力など、マルチタスク(同時並行)が苦手
- 興味のある分野には過集中するが、関心がない業務には手がつかない
※チェックリストは目安です(診断の代用ではありません)
これらに多く当てはまっても、必ずしもASDとは限りません。HSPやストレスの影響も考えられます。
大切なのは数ではなく、「どの項目が今の自分を苦しめているか」に気づくことです。
もし生活に支障が出ている場合は、一人で抱え込まず専門家への相談を検討してみてください。
受診を迷うときの3つのサインと診断・相談の流れ
受診は、専門家という「強力なサポーター」を味方につける前向きな選択です。
「まだ頑張れる」と無理をしてこじらせる前に、医療の力を借りて生活の基盤を守りましょう。
「辛い」と感じたら受診したい3つのサイン
・身体症状
不眠、過眠、食欲不振、動悸、頭痛など、体に明らかな不調が出ている。
・日常生活や仕事に支障がある
遅刻や欠勤が増えた、家事が手につかない、ミスが増えて業務が回らない。
・「消えてしまいたい」
将来への希望が持てず、漠然とした不安や、今の状況から逃げ出したい衝動が続く。
上記の症状が2週間以上続いている場合は、心と体が限界を訴えているサインです。
「この程度で行っていいの?」と迷う必要はありません。早めの受診をおすすめします。
診断の仕組み(DSM-5など基準のポイント)
ASDの診断は、血液検査のように数値だけで決まるものではありません。
主に「問診」と「心理検査」を行い、国際的な診断基準(DSM-5やICD-11)と照らし合わせて医師が総合的に判断します(American Psychiatric Association, DSM-5)。
診断では、「社会的コミュニケーションの困難さ」と「限定的・反復的な行動パターン」の両方が、幼少期から存在していたかどうかが重要なポイントとなります。
そのため、幼少期の様子や成績など、子どもの頃の記憶があるとスムーズです。
相談先(精神科・心療内科・発達障害者支援センター)
目的に合わせて、適切な相談先を選びましょう。
精神科・心療内科
診断書の作成、二次障害(睡眠障害やうつ)への薬物療法など、医療的ケアが必要な場合。
発達障害者支援センター
診断前でも相談可能。
仕事の悩みや生活の工夫、福祉制度の利用について具体的なアドバイスが欲しい場合。
診断名がついた場合のメリットと注意点
診断を受ける最大のメリットは、周囲や行政に対して「正当な根拠を持って配慮や支援を求められるようになる」ことです。
【合理的配慮の申し出|職場・学校】
「口頭ではなく指示はチャットで欲しい」「イヤーマフの使用を許可してほしい」など、特性に合わせた環境調整を相談する際の正当な根拠となります。
【経済的な負担軽減|公的支援】
通院費が1割負担になる「自立支援医療制度」や、精神障害者保健福祉手帳の取得など、公的なセーフティネットを利用できるようになります。
【適切な医療的アプローチ】
不調の原因が脳の特性によるものか、他の病気によるものかが明確になり、症状に合った適切な治療を受けられます。
診断後も定期的な通院で、生活上の困りごとを相談しながら、無理のないペースで環境調整を進めていくことができます。それらを医師や支援者と相談しながら進められることも、クリニック通院の利点の一つです。
ただ、診断がついたからといって、特性そのものが消えてなくなるわけではありません。
診断は「治療のゴール」ではなく、自分らしく生きるための「スタート地点」です。
「生きづらさ」を「自分らしさ」へ|自分を守る環境づくりと公的支援
生きやすさを手に入れるために必要なのは、あなたの性格を変えることではなく、「環境」をあなたの特性に合わせることです。
「みんなと同じように我慢しなければ」というエネルギーを、「自分が楽に過ごせる工夫」や「使える制度」を探すことに使いましょう。
ほんの少し環境を変えるだけで、本来持っている能力がスムーズに発揮できるようになります。
【環境調整】刺激を減らすアイテムや工夫
感覚過敏のストレスを減らすには、我慢ではなく「物理的な遮断」が最も効果的です。
音や光などの刺激は、ASD特性を持つ脳にとって直接的なダメージとなり、気合で乗り越えられるものではありません。
「ノイズキャンセリングイヤホン🎧」で雑音を消す、「ブルーライトカット眼鏡👓」や「調光レンズ」で光を和らげる、など、あなた本来のパフォーマンスを出す工夫をしましょう。
【人間関係】「できないこと」も安心して伝える方法
苦手な業務や対応を断る際は、断るだけでなく「代わりの案」をセットで提示するとスムーズです。



できません
と、できないことを伝えると、自分も相手も気まずくなってしまいます。



電話は苦手ですが、メールならすぐに返信できます
と「できる方法」を一緒に伝えることで前向きな印象に変わり、周囲も協力しやすくなります。
【働き方】自分のペースで働きやすい職場の選び方
ASD女性が輝くためには、ゼネラリスト(何でも屋)を目指すよりも、特定のスキルに没頭できる環境を選ぶことが近道です。
「臨機応変な対応」や「空気を読むこと」が評価される職場よりも、マニュアルが完備された職場や、専門スキルを活かせる技術職、あるいは静かな環境で作業できるリモートワークなどが適しています。
「自分を変えよう」と苦しむよりも、「自分がフィットする場所」を探す方が、ずっと早く成果を出せます。
医療費の軽減や就労サポート|知っておきたい「自立支援医療」と福祉制度
通院や生活の安定を支えるために、国が用意している公的な仕組みを活用しましょう。
| 自立支援医療 | 医療費が原則「1割」に軽減 | 通院費や薬代の負担が軽くなる制度。 経済的な不安を減らして治療に専念できる。 |
|---|---|---|
| 精神障害者手帳 | 税金控除や割引などの優待 | 取得しても会社には秘密にできる。 持っているだけで安心できるプライベートな「お守り」 |
| 就労移行支援 | 仕事のスキル習得と就活伴走 | 「自分に合う仕事」を一緒に探すサービス。 ビジネスマナーから実務訓練まで、自分のペースで準備できる。 |


大人のASD女性に関するよくある質問(FAQ)


ネット上の極端な情報に惑わされないよう、多くの方が抱く疑問についてフラットな視点でお答えします。
まとめ|特性は「治すもの」ではなく上手に「つき合うもの」
ASDの特性は、良し悪しではなく「脳のタイプ」の違いです。
もし今うまくいっていないとしても、それはあなたの努力不足ではなく、環境と特性がミスマッチを起こしているだけです。
「私が変わらなきゃ」と無理をするのではなく、環境を自分に合わせることを意識してみてください。
大切にしてほしいこと
・「普通」を目指さず、「自分が楽な状態」を最優先にする
・苦手なことは気合で克服せず、道具や人に頼る
・「逃げる」は悪いことではなく、自分を守る戦略
迷ったり、つらいときは、ひとりで抱え込まずに専門機関や支援窓口に相談してください。
自分の特性を知り、それに合った環境を整えていくことが、あなたらしく穏やかに生きるための土台になります。
【この記事の監修医】
今雪 宏崇
(精神科医・川口メンタルクリニック院長)
精神科専門医。地域のメンタルヘルス支援に携わる。
外来診療に加え、訪問診療にも注力し、通院が難しい方へのサポートも行っている。
▶ 詳しいプロフィールは 院長紹介ページ をご覧ください。
【免責事項】
本記事は医療機関による情報提供を目的としており、個別の診断・治療を代行するものではありません。ご自身の症状については、必ず医師・医療機関にご相談ください。
📚 参考文献(一次情報・レビュー)
- Hull L, Mandy W, Lai M-C, et al. Autism in women: A review of the literature. Rev J Autism Dev Disord. 2023.
Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37030965/ - Lai M-C, Lombardo MV, Auyeung B, et al. Sex differences in autism spectrum disorder. Front Psychiatry. 2022;13:931745.
Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9136002/ - Ruggeri B, Dorard G, D’Amico A, et al. Gender differences in misdiagnosis and delayed diagnosis of autism spectrum disorder in adults. Front Psychiatry. 2021;12:727939.
Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8306851/ - Livingston LA, Shah P, Happé F, et al. Predictors and outcomes of camouflaging in autism: A systematic review. Autism Res. 2022;15(2):216–235.
Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9902997/ - Hull L, et al. Camouflage and masking behavior in adult autism: A systematic review. Front Psychiatry. 2023;14:1108110.
Available from: https://www.frontiersin.org/journals/psychiatry/articles/10.3389/fpsyt.2023.1108110/full
📗 診断基準・ガイドライン
- American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition (DSM-5). Arlington, VA: American Psychiatric Publishing; 2013.
- World Health Organization. International Classification of Diseases 11th Revision (ICD-11). Geneva: WHO; 2019.
- National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Autism spectrum disorder in adults: diagnosis and management (CG142). London: NICE; 2012 (updated 2021).
日本の制度・公的情報
・自立支援医療の概要|厚生労働省
・川口市ホームページ|医療制度





