在宅医療のメリット・デメリットを完全解説|費用・向いている人・注意点まとめ

通院が難しくなった方にとって、自宅で診療が受けられる「在宅医療」は大きな安心につながる医療の形です。
本記事では、精神疾患にも対応できる在宅医療について、メリットとデメリットをわかりやすくご紹介します。
在宅医療とは?“対象・費用・進め方”の全体像を解説
自宅で医療が受けられる在宅医療のしくみとは
在宅医療は、通院が難しい方のために、医師や看護師が自宅を訪問して診療や処置を行う医療サービスです。
提供する内容は、定期的な診察、処方箋の発行、症状の経過観察、必要に応じた医療処置など。
精神科では、生活環境をふまえた診療ができるため、ストレスが少なく症状安定につながりやすい利点があります。
在宅医療・訪問診療・往診の違い
「在宅医療」「訪問診療」「往診」の違いはよく混同されます。
この章では、在宅医療の仕組みと訪問診療・往診の違いを、図と表でわかりやすく整理します。

用語 | 意味・定義 |
---|---|
在宅医療 | 通院が難しい方に、自宅で医療を受けられる仕組み全体(訪問診療・往診などを含む) |
訪問診療 | 計画的・定期的に医師が訪れる診療(例:月1〜2回)。診察・処方・経過観察が中心 |
往診 | 急な体調変化などに対応し、臨時に医師が駆けつける |
※看護師による訪問看護は医療と連携する別サービスです。家族の負担対策として後ほど解説します。
以下の記事でも、「訪問診療」と「往診」の違いを詳しく解説しています。
どんな人が在宅医療の対象?年齢や疾患は関係ある?
在宅医療は、病名や年齢にかかわらず、通院がむずかしく継続的な医療が必要な方が主な対象です。
ここでは在宅医療の対象になるか、判断の目安をやさしく整理します。
通院が困難なすべての人が対象
- 高齢や身体疾患で通院が体力的に難しい
- 精神症状により外出や公共交通の利用が難しい
- 認知症や神経難病などで介助が必要で外出できない
「病状は安定しているが通院だけが難しい」という場合も、在宅医療を検討する価値があります。
精神疾患(統合失調症・うつ・認知症など)も対象に
精神疾患も在宅医療の対象になります。

たとえば…
- 統合失調症で外出への不安が強い
- 重度のうつ状態で動けない
- 認知症で介助なしの外出が困難
- 広場恐怖や強迫症などで公共交通が使えない
- 発達・知的障害で単独外出が難しく家族負担が大きい など
(※上記は対象の一例です)
判断は医療の必要性と本人・家族の意向を尊重して行います。主治医や支援機関との連携が大切です。
精神科でも使える?できること・注意点
精神科の訪問診療では、服薬の調整、症状観察、家族への助言、環境調整の提案などが中心です。
自宅という落ち着いた環境で話せるため、外来よりも実態に即したやりとりになりやすい一面があります。
一方で安全配慮(自傷他害リスクの評価)や、訪問看護との連携、緊急時の対応方法などについて、事前の取り決めが重要です。
対応可否は医療機関により異なるため、まずは主治医や地域窓口にご相談ください。
若年層でも、必要があれば利用可能
在宅医療は「高齢者向け」に限りません。年齢制限はなく、必要性があり通院が難しければ制度の対象です。(例:当院では原則20歳以上が対象)
在宅医療のメリット(患者・家族・生活の視点)
在宅医療のメリットには以下のようなものがあります。
・移動負担がゼロ:外出しなくてよいので、体力・気力の消耗を防げます。
・自宅で安心して過ごせる:慣れた環境で診療が受けられ、生活に沿った助言が得られます。
・感染症リスクの軽減:人との接触機会が少なく、院内感染などを避けやすいです。
とくに精神疾患の方は、人混みや騒音が不安や症状の引き金になりやすいため、在宅で自分のペースを保てる安心感は大きな利点です。
在宅医療のデメリットと対策(セットで考える)
まずは在宅医療でできること/難しいことを一目で確認しましょう。詳しい内容と対策はこの下で解説します。
在宅医療で対応できる内容と難しい内容の目安(精神科を含む一般的な例)


在宅でできること・できないこと
在宅医療でできること
- 定期的な診察と服薬の調整、症状・生活状況の観察
- 家族への相談支援、訪問看護や福祉サービスとの連携
在宅では難しいこと
・MRI・CTなどの精密検査、集中治療レベルの処置
・24時間常駐での医療管理、放射線治療や高度な化学療法
対策:難しい内容は外来や入院と併用する前提で計画します
在宅医療が向いていないケース(精神科の目安)
- 自傷・他害リスクが高く、家で安全に見守る人手や体制が不十分
- 被害念慮が強く、医療者訪問が妄想内容を悪化させるおそれがある
- 薬物の自己管理が困難で、多量服薬・逸脱の危険が続いている
- 家族や介護者が燃え尽き状態で、手伝ってくれる人やサービスの手配(支援リソース)の確保が未了
- 居住環境の安全配慮(鍵・刃物・火気等)が整っていない
※上記は目安です。入院・訪問看護の強化・地域包括支援の併用などで段階的に調整します。
家族の負担が大きくなる?(介護・対応のストレス)
「家で受けられる安心感」と引き換えに、家族の負担が増えることがあります。
家族の負担を減らす対策(例)
訪問看護・ケアマネとの連携/デイケアや福祉サービスの活用/家族向け相談窓口の利用。
本人が在宅医療を拒否するケース
「医師が家に来ること自体に抵抗がある」という方もいます(例:被害感・不安が強いとき)。
対策:初回は家族面談から/無理のない距離感で徐々に慣れる/訪問診療を押しつけず、選択肢の一つとして提示。
もしものときはどうする?緊急対応の考え方
- 緊急連絡先と対応手順(夜間の可否・搬送目安)を書面で共有
- 提携病院情報や搬送手順を家族で事前確認
- 24時間対応の訪問看護・精神科救急との連携体制を確認
配布用:緊急連絡メモ(コピペして印刷OK)
在宅医療 よくある質問(さっと読めます)
在宅医療の「よくある質問」にお答えします。


まとめ|在宅医療は「通えない」から始められる新しい医療のかたち


在宅医療は、通院負担を減らし自宅で落ち着いて療養できるメリットがある一方、できる医療の範囲が限られるなどの注意点もあります。
精密検査は外来と併用し、24時間の訪問看護との連携や緊急時の対応方法の取り決めで多くはカバーできます。
受診の目安(迷ったときの判断材料)
- 病院に通うのが難しく、医師の継続的な関わりが必要
- 家族の介護負担が大きく、専門職の定期訪問があると安心
- 急変時の対応に不安があり、平時からの連絡体制を整えたい
在宅医療のの始め方(3ステップ)
在宅医療の利用には、いくつかの手続きと確認が必要です。
以下のステップに沿って進めていくのがスムーズです。


1.主治医に相談:対象かどうか、外来との併用方針を確認
2.相談窓口に連絡:地域包括支援センター/当院へ問い合わせ
3.訪問診療を開始:24時間の訪問看護の有無、夜間連絡先、緊急フローを事前に取り決め
費用の不安は、公的保険や制度でカバーできる場合があります。
精神疾患の通院費軽減制度については以下の自立支援医療の解説も参考にしてください。


「自分は対象かな?」と不安に思う場合、まずは状況のヒアリングをさせていただきます。
ご負担の少ない形を一緒に考えましょう。
最終更新:2025-09-16(メリット/デメリット章を加筆)|初回公開:2025-08-08
【この記事の監修医】
今雪 宏崇
(精神科医・川口メンタルクリニック院長)
精神科専門医。地域のメンタルヘルス支援に携わる。
外来診療に加え、訪問診療にも注力し、通院が難しい方へのサポートも行っている。
▶ 詳しいプロフィールは 院長紹介ページ をご覧ください。