在宅医療のメリットとデメリットとは?精神科でも使える?

通院が難しくなった方にとって、自宅で診療が受けられる「在宅医療」は大きな安心につながる医療の形です。
本記事では、精神疾患にも対応できる在宅医療について、メリットとデメリットをわかりやすくご紹介します。
✅この記事の要点まとめ
- 在宅医療は、通院困難な方のために自宅で医療が受けられる仕組みです
- 精神疾患でも外出困難であれば対象になります
- 通院ストレスの軽減や安心感など、多くのメリットがあります
- 家族の負担や緊急時対応などの課題もある
- 制度を活用し、訪問診療から始めるのがおすすめです
在宅医療って?精神科でも受けられる医療サービスです
自宅で医療が受けられる在宅医療のしくみとは
在宅医療とは、通院が難しい方のために、医師や看護師が自宅を訪問して診療や処置を行う医療サービスのことです。
対象は、高齢者や身体疾患を抱える方だけではありません。
うつ病や統合失調症、認知症など、精神疾患によって外出が困難な方も対象になります。

提供される内容は、以下のようなものが中心です。
・定期的な診察
・処方箋の発行
・症状の経過観察
・必要に応じた医療処置 など
精神科の場合、患者さんの生活環境をふまえて診療ができるため、本人のストレスが少なく、症状の安定にもつながりやすいという特長があります。
クリニックによっては、訪問診療専用の体制を整えており、地域の支援機関と連携しながらケアを継続することも可能です。
訪問診療・往診・在宅医療の違い
「在宅医療」「訪問診療」「往診」という言葉は似ていますが、医療現場では明確に区別されています。


・在宅医療:通院が困難な方の自宅で医療を提供する全体の仕組み
・訪問診療:あらかじめ計画を立てて、定期的に医師が診療に訪れる形
・往診:急な体調変化などに対応して、臨時で医師が駆けつけるもの
訪問診療と往診の違いについて、詳しい内容は以下の記事をお読み下さい。
精神科でも訪問診療は可能です
以下のような場合、精神科訪問診療が利用できます。
・統合失調症やうつ病で外出ができない
・強い不安やパニック症状があり、通院が難しい
・認知症や知的障害などにより、移動に介助が必要 など
精神科の訪問診療では、服薬管理や症状の観察、家族との相談支援が中心となります。
通院よりも落ち着いた環境で診療できるため、患者さん本人がリラックスしやすく、診察内容がより実態に即したものになることも少なくありません。
ただし、すべての精神科クリニックが対応しているわけではないため、まずは主治医や地域の支援窓口に相談するのがおすすめです。
どんな人が在宅医療の対象?年齢や疾患は関係ある?
では、在宅医療の対象になるのはどのような人でしょうか?
・通院が困難で、継続的に医療が必要なすべての人
・精神疾患でも利用可
・年齢の制限なし
以下で詳しく説明します。
通院が困難なすべての人が対象
- 高齢や身体疾患で通院が体力的に難しい
- 精神症状によって外出や公共交通機関の利用が困難
- 認知症や神経難病などにより介助が必要で外出できない
精神科の患者さんでも、「病状が安定しているけれど通院だけがどうしても難しい」という場合は、在宅医療の選択肢を検討する価値があります。
精神疾患(統合失調症・うつ・認知症など)も対象になります
在宅医療は、身体疾患だけのものではありません。精神科の病気でも、通院が困難な状態であれば対象になります。
・統合失調症で外出への不安が強い方
・重度のうつ状態で動けなくなっている方
・認知症で介助なしの外出が困難な方
・広場恐怖や強迫性障害などにより公共交通が使えない方
・発達障害や知的障害で一人で外出できず家族も負担が多い
精神科の場合は、「医療の必要性」と「本人・家族の意向」の両方を尊重したうえで判断されることが多く、主治医や支援機関との連携が重要になります。
若年層でも、必要があれば利用可能
在宅医療というと「高齢者向け」というイメージがあるかもしれませんが、実際には年齢に制限はありません。
医療的な必要性があり通院が困難であれば、制度の対象になります(※当院では、原則20歳以上の方を対象にしています)。
若い方でも、無理に通院を続けて体調を崩すより、生活の中に医療が入ることで安定につながるケースは少なくありません。
在宅医療でできること・できないこと
自宅で受けられる医療には、可能なことと難しいことがあります。



ここでは、在宅医療で対応できる内容と、その限界についてご紹介します。


できること(定期診察/薬の処方/病状確認など)
在宅医療では、通院と同様の診療を自宅で受けることができます。精神科の場合、以下のような対応が可能です。
・医師による定期的な診察(例:月1~2回程度)
・処方箋の発行と服薬状況の確認
・精神症状や生活状況の経過観察
・ご家族からの相談・助言
・訪問看護との連携、必要に応じた福祉サービスの紹介
自宅という落ち着いた環境の中で話すことで、外来よりも自然に本音が出やすくなる方もいます。
そのため、生活の実態に即した診療がしやすいという利点があります。
できないこと(精密検査/入院治療/24時間常駐など)
一方で、在宅医療には限界もあります。
以下のような行為は基本的に在宅では行えません。
・MRIやCTなどの高度な画像検査
・入院治療や集中治療レベルの処置
・24時間常駐しての医療管理
・放射線治療や高度な化学療法
精神疾患の方の場合も、急激な興奮や幻覚・自傷行為が見られるような緊急事態では、在宅医療では対応しきれないことがあります。
その際は、必要に応じて外来・入院との切り替えが検討されます。
もしものときはどうする?緊急対応の考え方
在宅医療では、急変時の対応について事前に主治医と確認しておくことが重要です。
精神科の訪問診療でも、以下のような体制を取っていることが多いです。
・緊急連絡先(医療機関)をあらかじめ共有
・状況に応じて提携病院や救急車の手配を行う
・24時間対応の訪問看護やケアマネジャーと連携して対応
夜間や休日の対応についても、精神科救急や地域の支援窓口との連携体制があると安心です。
日常的に診療チームと信頼関係を築いておくことで、いざというときの判断がスムーズになります
在宅医療のメリットとは?患者と家族、両方にやさしい理由
在宅医療には、患者さん本人だけでなく、ご家族にとっても多くの利点があります。 ここでは代表的なメリットをご紹介します。
・移動負担がゼロ
・慣れた環境で医療が受けられる
・感染症リスクの軽減
通院ストレスや移動負担がゼロに
通院のたびに感じる「移動の大変さ」は、体力的にも精神的にも大きな負担です。
特に、精神疾患のある方にとっては、人混み・騒音・公共交通の利用などが不安や症状悪化の引き金になることもあります。
在宅医療を利用すれば、外出せずに自宅で診療が完結するため、通院による疲労や不安を感じずに済みます。
これは、体調の安定にもつながる大きなメリットです。
自宅で安心して過ごせるQOLの高さ
病院ではなく、「慣れた自宅で診察を受けられる」ということは、安心感の面でも大きな意味があります。
精神科では、生活環境に即したアドバイスや支援がしやすく、結果的に生活の質(QOL)を保ちやすくなります。
感染症リスクの軽減(コロナ後の注目ポイント)
新型コロナウイルス以降、外出での感染リスクを心配する方が増えました。
在宅医療は、他者との接触機会を減らしつつ医療を受けられるため、感染対策としても有効です。
精神疾患の人にとっても「外出しない安心感」が大きい
うつ病、統合失調症、パニック障害、強迫性障害など、多くの精神疾患では、「外出すること」自体が不安や恐怖の原因になります。
在宅診療は、本人のペースで治療を受けやすくなるだけでなく、ご家族にとっても「家で医師と話せる」安心感が生まれます。
在宅医療のデメリットと対策
在宅医療は多くのメリットがある一方で、いくつかの課題もあります。
ここでは代表的なデメリットと、それに対する対策を紹介します。
家族の負担が大きくなる?(介護・対応のストレス)
在宅医療は「家で受けられる安心感」がある一方で、家族の介護やサポートの負担が増えることがあります。
「すべてを家庭で支えようとしない」ことが、長く穏やかな関係を保つ鍵となります。
- 訪問看護やケアマネジャーとの連携、家族だけで抱え込まない
- デイケアや福祉サービスの活用
- 家族向けの相談窓口やサポート団体に相談する
本人が在宅医療を拒否するケース
精神科では「医師が自宅に来ること自体に抵抗がある」というケースもあります。
たとえば、統合失調症や強い不安症状を持つ方が、「誰かに見られている」「監視されている」と感じてしまう場合などです。
・初回はご家族への面談からスタートする
・本人が無理なく接することができる距離感で、徐々に慣れてもらう
・訪問診療を押しつけず、選択肢の一つとして提示する
緊急時にすぐ医師が来られない不安
在宅医療では、24時間常駐の医師がいるわけではありません。夜間や休日に急変があった場合には、提携先の病院や救急対応が必要です。
- 緊急連絡先や対応方法をあらかじめ主治医と相談し、共有しておく
- 提携病院の情報や搬送手順を家族で確認しておく
- 夜間対応可能な訪問看護サービスや精神科救急への連携体制を確認
費用の心配
「在宅医療は高くつくのでは?」という不安を感じる方のために、費用面の対策についても確認しておきましょう。
・自立支援医療制度(精神疾患の通院費が1割負担)を活用する
・医療保険・高額療養費制度の対象になる場合が多いことを確認
・介護保険と併用して訪問看護などの支援を受ける
どう始めればいい?在宅医療の導入3ステップ
在宅医療の利用には、いくつかの手続きと確認が必要です。
以下のステップに沿って進めていくのがスムーズです。


①主治医に相談する
まずは、現在の主治医に「在宅医療を検討している」ことを伝えましょう。通院の困難さ、家庭の状況、本人の希望などをもとに、必要性や導入の可否を判断してもらいます。
②当院や地域の相談機関に問い合わせる
在宅医療について具体的な情報を得たいときは、主治医や当院ご相談ください。
また、以下のような機関も制度の案内や医療機関の紹介を行っており、情報収集の入口として役立ちます。
・地域包括支援センター(高齢者)
・精神保健福祉センター
・保健所
・訪問看護ステーションや精神科対応の福祉サービス
③訪問診療から小さく始める
「まずは月1回、医師が来て様子を見る」といった形で、負担の少ないスタートから始めることも可能です。本人や家族が無理なく受け入れられる範囲で進めていきましょう。
まとめ:在宅医療は「通えない」から始める新しい医療のかたち


・在宅医療は、自宅で医師の診療が受けられる制度です
・精神疾患を持つ方でも、通院が困難であれば利用できます
・通院負担の軽減、安心できる環境の維持などが大きなメリット
・一方で、家族の負担や緊急対応などの課題もあります
・主治医や地域の相談窓口と連携して、段階的に導入するのがコツ
当院でも、在宅医療に関するご相談を随時お受けしています。
まずはお気軽にお問合せ下さい。安心して医療を受けられる方法を、一緒に考えていきましょう。