PTSDって何?症状や原因、治療法について詳しく解説します

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、非常に怖い出来事や強いストレスを経験した後に、その出来事がいつまでも頭から離れず、心に深い傷を残してしまう病気です。

これは単なる「辛い出来事」ではなく、日常生活に支障をきたすほどの強い苦痛や不安感を引き起こすことがあります。この病気は、戦争や事故、肉体的・性的暴力、自然災害などのトラウマ的な出来事が原因で起こることが多く、誰でもなる可能性があります。

ここでは、PTSDの症状や原因、治療法について解説します。

目次

PTSD発症の仕組み

人の脳は、危険を感じたときに「戦うか・逃げるか」を決めるために、体にストレス反応を起こします。このときに働くのが扁桃体(へんとうたい)という部分です。扁桃体には危険を察知すると、心臓をドキドキさせたり、体を緊張させたりする働きがあります。

一方で、海馬(かいば)という脳の部分は、出来事を「これはもう終わった過去のことだよ」と整理する役割をしています。

しかし、ものすごく強いストレスを受けると、扁桃体がずっと危険を感じ続けてしまい、海馬がうまく体験を整理できなくなります。そうすると、過去の怖かった出来事が自分の中で「過去の出来事」だと感じられず、まるで今も同じことが起きているように感じてしまうのです。

この状態になると、突然その体験が頭に浮かんで怖くなるフラッシュバック」が起きたり、悪夢を見たり、精神的に不安でいてもたってもいられなくなったりします。

また、脳の中でストレスに関係するホルモン(コルチゾール)のバランスが崩れることで、心身がずっと緊張したままになったり、眠れなくなることもあります。

PTSDの主な症状

PTSDの症状には以下のようなものがあります。

回避・麻痺症状

PTSDでは、怖かった場所や人、状況を避けようとします。例えば、事故や事件を体験した人がその場所に行かないようにする、ストレス対象となる人を避けることなどです。また、気持ちが麻痺してしまい、うれしいことや悲しいことをあまり感じられなくなることもあります。

侵入症状

PTSDの侵入症状とは、過去のつらい出来事、怖かったことがふいに思い出されたり、夢に出てきたりして、まるでその場面が再び起きているかのような強い恐怖や不安を感じることです。このせいで落ち着かなくなったり、眠れなくなったりすることがあります。

悪夢

悪夢とは、恐怖や不安など強いストレスを伴う不快な夢のことです。睡眠の質を低下させ、覚醒後も不快感・不安感が続くことがあります。

過覚醒

PTSDでは、ストレスや危険を感じたときに体が働く交感神経が常に高ぶっている状態になることがあります。これを過覚醒(かかくせい)」と言います。

過覚醒が続くと、心臓がドキドキしたり、口が乾いたり、肩がこったり、頭が痛くなったりします。また、寝つきが悪くなり、寝ている間も浅い眠りしかできず、少しの音で目が覚めることもあります。

さらに、体のリラックスする神経である副交感神経が働きにくくなるため、胃や腸の調子が悪くなり、胃痛や吐き気、腹痛が起こることもあります。

PTSDの症状が続くと、集中できない、人とうまく関係が築けない、自己評価が低くなる、将来に対して不安を感じるなど、社会生活や日常生活にも影響が出るケースもあります。

PTSDの原因

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の原因は人によって違いますが、よくある原因として次のようなものがあります。

  • 戦争の体験
  • 自然災害(地震や津波など)
  • 事故や暴力、性的暴行
  • 交通事故
  • 学校でのいじめや家庭内の虐待

これらの出来事は、生死に関わるほどの強い恐怖やストレス体験となり、そのような状況に直面した場合にPTSDを発症することがあります。

ただ、同じ状況で同じ体験をしたら誰もが必ずPTSDになるわけではなく、そのことにこころがどれだけ強い反応をしたかが大きく関係するため、元々の生まれ持った性格や育った環境も、PTSDを発症するかどうかに影響を与えることがわかっています。

PTSDの種類

PTSDには、単純性PTSD複雑性PTSDの2種類があります。

単純性PTSD

  • どんなときに起こる?
    単純性PTSDは、いじめや犯罪被害、戦争、大きな事故、自然災害など、特定の出来事が原因で発症します。このような出来事に直面したときに、心が強いストレスを受けて、PTSDが起こることがあります。
  • 症状は?
    怖い出来事を何度も思い出してしまったり、悪夢を見たり、ひどく不安になることがあります。また、その出来事を思い出さないように、特定の場所や人を避けたりすることもあります。

複雑性PTSD

  • どんなときに起こる?

長期にわたって繰り返し辛い出来事を経験することで起こります。単純なPTSDは1回の出来事が原因になることが多いですが、複雑性PTSDは、何度も続く辛い経験が積み重なって発症します。例えば、長期にわたって身体的、精神的、心理的虐待を受け続けた場合や、長期にわたって家庭内暴力を受けたり、宗教的な洗脳やマインドコントロールを受けた場合などに起こりやすいです。

  • 症状は?
    単純性PTSDよりも症状が重く、長く続くことがあります。心の中で自分や他の人を信じることができなくなったり、感情をうまくコントロールできなくなったりします。また、他の人と親密な関係を持つことが難しくなることがあります。

まとめ

単純性PTSDは、特定の怖い出来事が原因で起こりやすい。

複雑性PTSDは、長期間の虐待や繰り返しのトラウマが原因で、
症状が長引くことが多い。

PTSDの診断基準と治療法について

PTSDの診断基準と治療法について説明します。

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、強い恐怖やストレスを感じる出来事を経験した後に起こる病気です。もし自分がPTSDかも?と思ったときのために、PTSDがどんな基準で診断され、どんな治療を受けることができるのかを知っておきましょう。

PTSDの診断基準

PTSDを診断するには、主に次の4つの症状や、専門の診断ツールに基づいて診断されます。

侵入症状

  • 怖い出来事を繰り返し思い出してしまう。
  • 悪夢を見たり、フラッシュバック(その出来事を再び体験しているように感じる)を起こす。

回避症状

  • その出来事を思い出さないように避けようとする。
  • 特定の場所や人、状況を避けるようになる。

認知と気分の変化

  • 自分や他の人について、否定的な考えを持つようになる。
  • 喜びを感じにくくなり、興味が減少する。
  • 他人との関わりが難しくなる。

覚醒度と反応性の変化

  • 怒りっぽくなったり、イライラすることが増える。
  • いつも警戒しているような状態になり、過敏反応を示す。

これらの症状が 1ヶ月以上続いている場合、PTSDの可能性があると診断されます。

PTSDの治療法

PTSDは、適切な治療を受けることで、症状を軽くすることができます。

ここでは薬物療法カウンセリングについて説明します。

薬物療法

PTSD(心的外傷後ストレス障害)の薬物療法は、症状を軽くするために使われることがあります。薬は、心の状態を安定させたり、不安や恐怖を和らげたり、睡眠をよくするのに役立ちます。ただし、薬だけでは根本的に完治しないので、カウンセリングや心理療法と一緒に使うことが多いです。

PTSDの薬物療法に使われる薬には、次のような種類があります。

抗うつ薬

気分が落ち込んだり、不安になったりする気持ちを和らげる薬です。脳の中のバランスを整えることで、気持ちが楽になるように働きかけて気分を安定させてくれます。

抗不安薬

不安を軽くする薬です。特にこころに強い不安を感じるときに、不安や緊張をやわらげるお薬です。心が落ち着かず、ドキドキしたり、イライラしたりするようなときに使われます。抗不安薬を飲むと、気持ちが楽になってリラックスしやすくなります。

睡眠薬

眠れないときに使う薬です。PTSDでは悪夢や寝つきが悪くなることが多いため、睡眠薬で眠りやすくします。

薬は医師の指示に従って使うことが大切です。自分の判断で薬を増やしたり、やめたりしないようにしましょう。

薬は、今あるつらい症状をやわらげるために役立つもので、PTSDの根本原因そのものがなくなるわけではありません。しかし、症状が落ち着くことで気持ちが楽になり、生活しやすくなります。

カウンセリング

カウンセリングは、専門の心理士と一緒に心の傷を癒す方法です。PTSDを経験した人は、その出来事を思い出して苦しく、辛くなることが多いので、その気持ちを誰かに話すことで少しずつ心が楽になることが期待できます。

カウンセリングでは、過去の怖い出来事を話すことが難しいと感じることもありますが、専門家である心理士は、その人のペースに合わせ、誠心誠意やさしくサポートしてくれるので、普段は周囲に話せないことも安心して話すことができます。

カウンセリングにはいくつかの方法があります。例えば、怖い出来事に対する考え方や感情を少しずつ変えていく認知行動療法、怖い出来事を少しずつ思い出して、それに慣れることで恐怖を減らす曝露療法(ばくろりょうほう・エクスポージャー)などです。

カウンセリングを受けることで、これまで整理できなかった心の中が整理され、少しずつ気持ちが楽になっていくことが期待できます。カウンセリングは1回だけではなく、根気よく続けることで効果が感じられることが多いので、無理せず、焦らず続けることが大切です。

おわりに PTSDかも?と思ったら

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、強いショックや恐怖、苦痛となる出来事を経験した後に、そのことが心に深く残り、日常生活に支障をきたす心の病気です。事故や災害、暴力、いじめなどがきっかけとなり、フラッシュバック(突然思い出す)、悪夢、不安、不眠、イライラといった症状が出ることがあります。

PTSDは決して珍しい病気ではなく、誰にでもPTSDになる可能性があります。

もし自分が「PTSDかも」と思ったら、ひとりで抱え込ます、早めに専門家を頼ってみましょう。適切な対応をすることで症状が和らぎ、回復することが可能です。治療には、今の辛い症状を和らげる薬物療法や、気持ちの整理をするカウンセリングなどがあります。

辛い経験をしたからといって、一生苦しみ続けなければならないわけではありません。時間はかかるかもしれませんが、適切な対応を積み重ねることで、回復への道が拓けていきます。

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