アルツハイマー型認知症について

アルツハイマー型認知症は、認知症の中で最も割合の大きい認知症で、主に高齢者に見られます。この病気は、記憶力や思考力、判断力などの認知機能が低下していく進行性の疾患です。発症の初期には「物忘れ」や「最近の出来事を忘れる」といった軽度の症状が現れ、周囲からは「年齢のせい」と捉えられがちですが、病気が進行するにつれて、日常生活に支障をきたすようになります。

アルツハイマー型認知症は、発症から数年で症状が悪化し、最終的には患者が自立した生活を送ることができなくなります。初期段階では、記憶障害が目立つ一方で、進行すると言語や判断力、社会的行動にも影響が出るため、家族や介護者のサポートが重要です。また、この病気は進行が遅いため、最初の兆候に気づきにくいことも多く、早期の発見と治療が症状の緩和や進行を遅らせるために重要です。

目次

アルツハイマー型認知症の症状

アルツハイマー型認知症は、初期段階では軽度の記憶障害から始まり、進行するにつれて多様な症状が現れます。主な症状は以下の通りです。

初期症状

△記憶障害
最近の出来事や新しい情報を忘れやすくなる。

△時間や場所の認識の低下
現在の日付や場所が分からなくなることがある。

△軽度の言語障害
言葉が出てこない、簡単な単語を思い出せないことがある。

△集中力の低下
仕事や趣味に集中するのが難しくなる。

中期症状

△記憶障害の進行
過去の出来事や身近な人の名前を忘れることが増える。
自分の家の場所や日常的な活動を忘れることもある。

△判断力や思考力の低下
金銭管理や簡単な計算ができなくなる。
計画的に物事を進めるのが難しくなる。

△言語能力の低下
会話で言葉を失うことが増え、会話が成立しにくくなる。
繰り返し同じことを言ったり、会話が途切れたりする。

△感情や行動の変化
不安や興奮、抑うつが見られることがあり、怒りやイライラを示すこともある。

後期症状

△重度の記憶障害
自分の名前や家族の名前も忘れ、過去の出来事や現実との接続ができなくなる。

△自立的な生活が困難になる
食事や排泄、着替えなどの日常生活の基本的な動作ができなくなる。

△言語の喪失
ほとんど言葉を話さなくなり、コミュニケーションが困難になる。

△身体的症状
運動機能の低下や筋力の衰え、歩行が困難になる。

△認知機能の深刻な低下
時間や場所の認識が完全に失われ、混乱や幻覚が見られることもある。

アルツハイマー型認知症の原因

アルツハイマー型認知症の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、いくつかの要因が病気の進行に関与していると考えられています。

脳の変化

アミロイドβやリン酸タウタンパクというタンパク質が脳内に異常に蓄積し、神経細胞同士のコミュニケーションを妨げ、脳の細胞を傷つけてしまいます。

遺伝的要因

家族にアルツハイマー型認知症の患者がいる場合、遺伝的なリスクが高くなることが知られています。

    環境的・生活習慣の要因

    高血圧や糖尿病、喫煙、運動不足、食生活の不均衡など、健康的でない生活習慣が認知症のリスクを高めるといわれています。

    アルツハイマー型認知症の治療法

    アルツハイマー型認知症に完全な治療法は現在のところありませんが、症状を緩和したり、進行を遅らせたりする治療法がいくつかあります。

    1.薬物療法

    神経伝達物質アセチルコリンの分解を抑えるコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジルなど)を用いることで記憶力や認知機能を一時的に改善させる方法があります。興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の作用を調整し、神経細胞を保護するNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)を用いる場合もあります。

    また、うつ症状や不安を感じることが多い場合は、抗うつ薬や抗不安薬を使用します。

    2.薬物療法以外の治療法

    薬物療法と並行して、認知症の進行を抑え、患者の生活の質を維持するために薬物療法以外の治療方法が重要となります。

    ①認知リハビリテーション
    簡単なパズルや日常的な活動を通じて、脳の働きを活性化させ、自信や独立心を保つ助けを行います。

    ②心理社会的支援
    患者と家族に対して心理的なサポートやカウンセリングを提供することが、精神的な負担を軽減します。

    ③生活環境の調整
    安心して過ごせる環境を整えることも治療の一環です。生活空間を整理し、物忘れや混乱を最小限に抑えるための工夫を行います。

    ④運動療法と食事療法
    定期的な軽い運動やバランスの取れた食事は、脳の健康にも良い影響を与えると言われています。

    3.介護とサポート

    アルツハイマー型認知症の患者には、日常生活の支援が欠かせません。患者が自立的に生活できなくなる中期から後期には、介護が必要となり、家族や専門の介護者によるサポートが求められます。介護施設や在宅介護の選択肢もあり、患者とその家族のニーズに応じた支援が提供されます。

    予防と対策

    以下の方法でアルツハイマー型認知症の発症のリスクの減少ができるといわれています。

    ・ウォーキング、体操などの定期的な運動をすること
    ・バランスの良い食事をこころがけること
    ・趣味や人との交流などを通じた社会的活動への参加をすること
    ・読書やパズルなどの脳に刺激を与えること
    ・睡眠の質を保つこと
    ・禁煙や適切な体重管理、血圧のコントロールを行うこと

    まとめ

    アルツハイマー型認知症は、記憶力や認知機能に影響を与え、進行するにつれて生活の質を大きく低下させる疾患です。早期発見と治療が重要であり、症状を和らげたり進行を遅らせたりするためには医療とともに日常生活の工夫が必要です。周囲の理解と支援が大きな助けとなります。また、生活習慣の改善や社会的活動の維持が予防に寄与する可能性が高いことが分かっています。

    参考

    国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 認知症情報ポータル

    https://www.ncgg.go.jp/dementia

    厚生労働省 認知症施策

    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/ninchi/index.html

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