ADHD(注意欠陥多動性障害)の特徴や原因、治療・対処法とは?注意点も解説
ADHD(注意欠陥多動性障害)は、「不注意」と「多動性・衝動性」を併せ持つ発達障害のひとつです。落ち着きがない、順序だてて物事を考え、行動することが苦手なケースが多い点が主な特徴になります。
ADHDは子どもの障害というイメージが強い人もいるかもしれません。しかし、ADHDは子どもだけの障害ではなく、子どもの頃に気づかれないまま成長してしまい、大人になってからさまざまな壁にぶち当たる場合も多いのです。
この記事では、ADHDの特徴や原因、治療法などについて詳しく解説します。
ADHDの主な特徴とは
ADHDは、個人によって症状の出現に違いがあります。しかし、共通するのは、以下のような特徴です。
1.不注意
ADHDの人は、注意散漫になることが多々あります。例えば、
・授業や仕事に集中できない
・忘れ物が多い
・外からの刺激に対して、すぐに気がそれてしまう
・単純なミスを頻発する
・時間や約束を守ることができない
・指示された事柄を忘れてしまう など
が挙げられます。
2.多動性や衝動性
物事に対する感情の起伏や激しさが伴うことも、ADHDの人にはめずらしくありません。具体的には、
・動いていないと落ち着かない
・貧乏ゆすりなど、無意識のうちに体を動かしてしまう
・感情や欲求のコントロールが苦手で、すぐに欲求を満たそうと行動する など
が考えられます。
ADHDの原因について
ADHDの原因は、現在のところ未だ明確には分かっていません。しかし、脳の中枢神経の機能不全によるものだと推測されています。特に、物事を整理整頓し、論理的に考えながら行動をコントロールする前頭葉の機能が弱いことが分かっており、前頭葉がうまく働いていないことが理由だと考えられているのです。
また、他の原因としてはもともと本人が持っている性質に加えて、育ってきた家庭環境の影響が相互作用となって、症状が生じるとも言われています。
まだ研究段階ではありますが、様々な要因が複雑に絡み合って発症する可能性が高いことが報告されています。
ADHDの3つの治療・対処法
ADHDの原因は不明ではありますが、当事者の悩みや困りごとを緩和するための治療や対処法は存在します。医療機関を始め、公的・民間の施設などにおいても幅広いサポートが実施されています。
1.当事者の話をよく聴き、心理検査を実施
ADHDの人は、個人によって様々な症状が現れます。そのため、ADHDの傾向があるかどうかを多方面から把握していくこと必要です。まずは、当事者の生い立ちや生活上で困っているのはどのようなことなのかを詳しく聴くことから始めます。
また、当事者の話をよく聴いたうえで今後の支援方針を決定するためには、心理検査の実施が有効です。なぜなら、心理検査はより客観的にADHDの疑いの測定ができるからです。主に行われる心理検査には、以下のようなものがあります。
・ウェクスラー式知能検査(WAIS)
ウェクスラー式知能検査(WAIS)は、成人を対象にした検査です。個人の知能が同世代の中でどの程度の位置に属しているかの理解が可能で、全検査IQに加え、「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリー」「処理速度」の4つの指標によって得意な分野と不得意な分野が把握できるしくみになっています。
「言語理解」は、言葉の理解や説明をする能力で、一般的な知識や社会的ルールの理解力などを見ていきます。また、「知覚推理」は、目で見た情報を理解し、その情報をもとに推理する能力のことで、状況を理解する力がどの程度あるかを確認する指標です。
一方、「ワーキングメモリー」は、耳で聞いたことを覚えたり、考えたことをアウトプットしたりする能力で、私たちが生活する上で基盤となる能力を測定できます。なお、「処理速度」は、単純作業を素早く正確に行う能力を示し、学習の効率が悪い・覚えた作業でもスピードが遅いなどの特徴があると、この能力が低いことが分かるのです。
参考
・AQ
AQは、自閉症スペクトラム障害のスクリーニングテストとして使われる心理検査です。Baron-Coheらによって考案され、千葉大学の若林教授によって日本語版として構造化されました。AQは原則的に自閉症スペクトグラム障害の疑いを測るものではありますが、ADHDと併発するケースも少なくなく、実施しておくと効果的だとされています。
AQでは、主に「社会的スキル」「注意の切り替え」「細部への注意」「コミュニケーション」「創造力」という5つの項目によって、当事者の特性を細かく分析します。
成人用は16歳からが対象となり、15分程度で終わるアンケートに答えることで、自閉症スペクトラムの傾向を測定します。また、AQで出た得点は、傾向を見るための1つの目安であり、アンケートの結果だけではなく、当事者が訴える日常生活で困っている物事なども得点に反映されます。
参考
・CAARS
CAARSは、成人のADHDを評価するもので、18歳以上を対象とした心理検査です。CAARSはConnersによって開発され、中村和彦氏が日本語版を監修しました。CAARSは、「自記式」と「観察者評価式」に分かれており、いずれの質問も66項目で15分~30分程度で回答することが出来ます。
CAARSでは、「注意不足・記憶の問題」「多動性・落ち着きのなさ」「衝動性・情緒不安定」「自己概念の問題」などの項目が含まれ、どの項目の得点が高いかによって生活の困りごとを軽減するためのポイントが明確に示されるようになっています。
当院では、上記の心理検査をセットで実施しています。そのため、多角的で柔軟な測定が期待できます。
参考
なお、発達障害を中心に測定するものではありませんが、次のような心理検査を実施する場合もあります。
・東大式エゴグラム(TEG)
東大式エゴグラムは、心理療法のひとつである交流分析を基盤に東京大学が開発した心理検査です。16歳以上が対象で、53項目の質問に答える(所要時間10分程度)しくみを取ります。
質問項目の回答を採点し、5つの自我状態をグラフ化することで個人の性格特性や行動パターンの理解が、可能となります。
参考
https://psycho-psycho.com/teg/
2.薬物療法
ADHDの人は学童期以降になると、必要に応じて薬物療法が行われる場合があります。当事者の症状の出方や強さなどによって、慎重に処方を検討します。主に、薬物療法で用いられる薬は、
・メチルフェニデート(コンサータ)
・アトモキセチン(ストラテラ)
・グアンファシン(インチュニブ)
・リスデキサンフェタミンメシル酸塩(ビバンセ)
です。
他にも、症状に応じて抗不安薬なども用いられることがあります。
ただし、当院ではコンサータとビバンセの処方は行っておりません
3.当事者の生活相談や指導を行う(カウンセリングも含む)
基本的に、ADHDの治療は、日常生活の中で困っている事柄を明確にし、その問題を少しずつ改善できるよう促していく支援が中心となります。そのためには、どのようなことを不得意と感じているか、どのような部分に困っているのかという点を当事者自身も自覚しておくことが重要になります。
医師や専門スタッフは当事者が自覚している問題の相談にのり、良い方向に繋げるための適切な対処法を共に考えることが大切です。
ADHDに対する注意点
ADHDは、心理検査などを行っても明確な診断まではつかない人も少なくありません。当事者の日常生活において得意・不得意の傾向が分かったり、どのような症状に一番困っていたりするかの確認は出来るものの、最終的には当事者自身によって、不得意な物事をある程度改善できるように働きかけるアプローチになるのが現状です。そのため、すぐにADHDだと決めつけることはせずに一定の時間をかけて、総合的・客観的に判断していく必要があります。
また、ADHDがベースとなって、うつ病やパニック障害などを併発しているケースもめずらしくありません。日常生活を送る上で不安や悩みを抱えている人は、遠慮せずに医師などに相談してみましょう。
参考URL
https://www.pref.shizuoka.jp/kodomokyoiku/school/kyoiku/1003777/tokubetsushien/1003913/1031914.html
https://www.takeda.co.jp/patients/adhd/parents/adhd-about.html