なぜ「バイトテロ」や迷惑動画をSNSに投稿してしまうのか?|心理と背景を精神科クリニックが解説

回転寿司での迷惑行為や、アルバイト中の悪ふざけ動画――
一見「信じられない」「常識がない」と思える行動が、SNSで炎上する事件は後を絶ちません。
しかし、なぜ彼らは批判されることがわかっているのに、わざわざ行動に移してしまうのでしょうか?
本記事では、精神科・心理学の視点から、こうした行動の背景にある人間の心理メカニズムと発達的特徴を解説します。単なる「悪ふざけ」では済まされない行動の根底には、驚くほど共通した要因が隠れています。
1. 「バイトテロ」や迷惑行為はなぜ起きるのか?
◆「悪いこと」と知っていてもやってしまう心理
多くの加害者は、「これをしたら炎上する」「店に迷惑がかかる」ことを頭では理解しています。
それでも行動してしまうのは、理性よりも“瞬間的な衝動”や“快感”が勝ってしまうためです。
行動の裏には、次のような心理要因が組み合わさっています。
「目立ちたい」「注目されたい」
「いいねがほしい」「友人にウケたい」
「周りがやっているから自分も」
「考える前に体が動いた」
「SNSの世界は“遊び”」という感覚
2. SNSがもたらす「快楽報酬」と“バズ”の誘惑
SNSは人間の「報酬系」を刺激します。
人は、他人から“いいね”や“コメント”といった承認を得ると、脳内でドーパミンという快楽物質が分泌されます。
- 「注目されたい」→ 動画を投稿
- 「反応が来る」→ 快感が得られる
- 「もっとバズらせたい」→ さらに過激な行動へ
この「報酬のループ」は、まるでギャンブルのような依存性を持つため、理性で止めにくくなります。
3. 「場の空気」に流される心理 ― 集団同調の力
迷惑行為の多くは複数人の場で行われているのが特徴です。
心理学では、人は集団の中では普段よりも判断が甘くなり、「自分だけの責任ではない」と錯覚する傾向があります(「責任の拡散」)。
「みんな笑っているから大丈夫」
「一人でやったわけじゃない」
「自分だけ悪者になることはない」
このような心理状態になると、常識のブレーキが外れやすくなるのです。
4. 衝動性と自己コントロールの問題
「やってはいけない」とわかっていても止められない背景には、衝動性の高さが関係します。
これは単なる性格ではなく、脳の「実行機能」(前頭前野)の働きと深く関係しています。
- 「今この瞬間の楽しさ」>「将来の損失」
- 「後で考えよう」→「考える前に行動」
- 「ちょっとだけ」のつもりが大問題に
特に若年層では脳の発達が未熟なため、衝動を抑える力が十分ではありません。
また、ADHD(注意欠如・多動性障害)のような発達特性が関係しているケースもあります。
5. 現代的な「現実感の希薄さ」
SNSでの行動は、画面の向こうに人がいるという“現実感”を薄れさせます。
その結果、「これは本当の迷惑ではない」「冗談の範囲だ」と誤った認識を持ってしまうのです。
特に以下のような特徴がある人は現実感が低下しやすく、行動がエスカレートしやすい傾向があります:
- オンラインでの反応を“現実”と捉える傾向がある
- 自分の行動が他人に与える影響への想像力が乏しい
- 社会的なルール・倫理観が未成熟
6. 発達特性やパーソナリティが関わっている場合も
こうした迷惑行為の背景には、発達特性やパーソナリティの問題が関わっていることもあります。
- 衝動的な行動が止められない
- 楽しさや刺激への欲求が強い
- 行動の結果を予測して抑えることが苦手
- 社会的なルールや他者の感情理解が苦手
- 「どこまでが冗談でどこからが迷惑か」の線引きが曖昧
- 一時的な刺激を求めてリスク行動をとる
- 他者への影響よりも「今の感情」を優先する
※もちろん、すべての迷惑行為が発達障害やパーソナリティによるものではありませんが、背景に心理・発達的要因が潜んでいるケースは少なくありません。
7. 社会ができる対策と、私たちができること
◆ 教育・啓発の重要性
「してはいけない」だけでなく、「なぜそれが人を傷つけるのか」「どういう結果を生むのか」を具体的に伝える教育が重要です。
◆ SNSリテラシーを育てる
- 情報の拡散性と影響力を理解する
- 冗談や悪ふざけが持つ“社会的リスク”を学ぶ
- 「ネットの世界は現実と地続き」という意識を持つ
◆ 本人や家族ができること
- 衝動性が強く、行動が止められない場合は専門家へ相談
- 発達障害の可能性がある場合は診断・支援を受ける
- 小さな成功体験を積み、自己コントロール力を高める
まとめ|「迷惑行為」は単なる性格の問題ではない
バイトテロや迷惑動画といった行動は、「モラルが低い」「常識がない」と片づけられがちです。
しかしその背景には、承認欲求・同調圧力・衝動性・現実感の希薄さ・発達特性など、複数の心理要因が複雑に絡み合っています。
重要なのは、「なぜそうした行動が起こるのか」を理解し、教育・支援・相談の機会を広げていくことです。
そして、本人が「なぜ自分は止められないのか」を知ることが、再発防止と人生の立て直しの第一歩になります。
✅参照
総務省 「SNSで発信するなら気をつけたいこと」
https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/case/post.html

