大人の自閉症スペクトラム障害(ASD)との関わり方

近年、大人になってから自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断されるケースが増えています。職場や家庭、社会生活の中で対人関係に困難を抱える方も多く、適切な支援や理解が求められます。本記事では、大人の自閉症スペクトラム障害(ASD)の主な特性を解説し、家族・職場・支援者がどのように関わるべきかについて具体的な方法を考えます。
大人の自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性とは?
自閉症スペクトラム障害(ASD)の特性は子どもと共通する部分もありますが、大人ならではの困難さもあります。特に以下のような特徴が見られます。
コミュニケーションの難しさ
・皮肉や曖昧な表現の理解が苦手
・相手の意図や感情をくみ取るのが難しい
・必要な場面でも報告・相談ができない
柔軟性の乏しさ・ルールへのこだわり
・予定やルーチンの変更に強いストレスを感じる
・マイルールを優先し、職場や家庭で衝突することがある
・「普通こうする」という暗黙の了解に気づきにくい
刺激に敏感/刺激を感じにくい
・職場の雑音や照明がストレスになる
・触覚、味覚、嗅覚の敏感さが生活の質に影響を与える
・逆に痛みや疲れを自覚しにくいこともある
対人関係のストレス
・人と関わることにエネルギーを使いすぎてしまう
・過去の対人関係の失敗を引きずりやすい
・誤解されやすく、孤立しやすい
生活の中で生じやすい困難と具体的な対策
自閉症スペクトラム障害(ASD)の方が社会生活で直面しやすい困難と、その対応策を紹介します。
職場での困難と支援策
【困難な場面】
・指示が抽象的だと理解できない
・突然の業務変更に適応できない
・上司や同僚との距離感がわからない
【対応策】
・具体的かつ視覚的な指示を出す(To Doリスト、マニュアル化)
・予定変更時には事前に説明し、調整の余地を持たせる
・上司や同僚とのルールを明確にする(話しかけるタイミング、報告の仕方)
家庭やパートナーとの関係
【困難な場面】
・感情表現が乏しく、相手の気持ちに気づきにくい
・会話が一方的で、相手の話を受け止めるのが苦手
・ルールやこだわりが強く、柔軟な対応ができない
【対応策】
・気持ちを言語化して伝える習慣をつける
・話し合いのルールを決め、具体的なフィードバックを行う
・お互いに無理をしない範囲で、対応のすり合わせを行う
社会生活での困難
【困難な場面】
・初対面の人とどう話せばいいかわからない
・店員や公共機関の職員と適切なやりとりができない
・人ごみや騒音がストレスになり、外出を避ける
【対応策】
・コミュニケーションのスクリプト(定型文)を用意する
・事前にシミュレーションし、対応の練習をする
・感覚過敏への対策(イヤーマフ、サングラス、静かな場所の確保)を行う
自閉症スペクトラム障害(ASD)の大人を支援するための関わり方
家族や職場の上司、支援者がどのように接すればよいかを考えます。
共通する支援の基本姿勢
「できない」のではなく「難しい」と理解する
できる方法を一緒に考える
明確なルールと説明を心がける
あいまいな表現は避け、具体的に伝える
ペースを尊重し、強制しない
無理な適応を求めず、本人が安心できる環境を整える
家族としてできる支援
・感情のズレが生じることを前提に、冷静に話し合う
・予定やルールを明確にして、変更時には早めに共有する
・必要以上に過保護にならず、本人のペースで支援する
職場の上司・同僚としてできる支援
・指示は明確にし、具体的な手順を示す
・本人の得意・不得意を把握し、役割を調整する
・困ったときに相談しやすい環境を作る
精神科クリニックとしての支援
診断・評価の提供
本人の特性や困難を客観的に把握するための評価を行う
カウンセリング・コーチング
自分の考えを整理しながら、目標達成に向けて前進できるようサポートする
薬物療法の選択肢
二次的な不安障害や抑うつに対する治療を行う
家族向けのサポート
自閉症スペクトラム障害(ASD)の理解を深め、適切な関わり方を学ぶためのプログラムを行う
まとめ
大人の自閉症スペクトラム障害(ASD)は、職場や家庭、社会生活で多くの困難に直面することがあります。しかし、適切な理解と支援があれば、本人の特性を活かしながら、安定した生活を送ることが可能です。
・本人に合った環境調整を行うことが大切
・コミュニケーションは「具体的」に、ルールを明確にする
・支援者側も、無理なく関われる方法を模索する
・精神科クリニックの診断やカウンセリングを活用する
自閉症の特性を理解し、適切な支援を行うことで、本人がより充実した人生を送る手助けができます。当院としても、一人ひとりに合った支援を提供することで、安心できる環境づくりに貢献していきます。
参照
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