認知症の方への家族のかかわり方・接し方ガイド―心が楽になるサポートのヒント―

認知症は、本人だけでなく家族にも大きな負担や不安をもたらします。
「どう接したらいいかわからない」「つい感情的になってしまう」と悩むご家族は少なくありません。
本記事では、認知症の症状に応じたかかわり方のコツや家族が抱え込みすぎないための工夫、さらに医療や制度を上手に活用する方法を解説します。
介護が長期化しやすい認知症だからこそ、家族が無理をせず、本人と安心して暮らすためのヒントをお届けします。
まずは認知症の理解から始めましょう
認知症とは
認知症は、記憶や判断力などの認知機能が徐々に低下していく病気の総称です。代表的なタイプには以下があります。
アルツハイマー型認知症 | 最も多く、記憶障害が初期から目立つ |
レビー小体型認知症 | 幻視や注意力の波が特徴 |
脳血管性認知症 | 脳梗塞などの後に発症しやすい |
前頭側頭型認知症 | 感情や社会的行動の変化が強い |
タイプによって症状の出方が異なり、家族が困惑する理由のひとつになっています。
BPSD(周辺症状)も知っておきましょう
認知症の方に現れる「物盗られ妄想」「徘徊」「興奮」「不安」「抑うつ」などの症状を『BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:周辺症状)』と呼びます。
これらは病気による脳の変化と、生活環境やストレスが影響して起こります。
家族が知っておきたい基本的な接し方のポイント
1. 否定や訂正を避け、安心感を与える
認知症の方が間違ったことを言っても、強く否定したり訂正したりしないことが大切です。
「それは違うでしょ」と正そうとすると、本人は混乱や不安を強く感じてしまいます。
「お金を盗まれた」と言われたとき → 「それは心配ですね。一緒に探してみましょうか」と共感を示す。
2. ゆっくり・はっきり話す
理解に時間がかかるため、焦らず待つことも大切です。
- 短い文で伝える
- 一度に多くの情報を与えない
- 相手の目を見て、やさしい口調で
3. 日課や環境を整える
認知症の方は、生活のリズムが一定だと安心します。
- 起床・食事・就寝の時間をできるだけそろえる
- よく使う物の場所を固定する
- 大きめの時計やカレンダーで時間感覚をサポートする
4. 本人の役割や自立を尊重する
できることを奪わず、自分でできる範囲を尊重することが大切です。
- 洗濯物をたたむ
- 食器を拭く
- 簡単な買い物を一緒に行う
役割を持つことで、本人の自尊心を保ちやすくなります。
5. 感情に寄り添う
「どうしてこんなことを言うの?」と思うときも、感情の背景に共感する姿勢が重要です。
- 不安 → 安心できる声かけ
- 怒り → 刺激せず距離を置く
- 寂しさ → 一緒に過ごす時間を作る
BPSDが出たときの具体的な対応例
物盗られ妄想
- まずは本人の不安を受け止める
- 一緒に探す・見つけるプロセスを作る
- 重要なものは決まった場所に保管する習慣をつける
徘徊
- 無理に止めず、見守りつつ安全を確保
- ドアや門に工夫(鍵の位置を変える、センサーを活用)
- 外出先が予想できる場合は連絡先を持たせる
幻覚・幻視
- 本人の話を頭ごなしに否定しない
- 安心できる声かけをする
- 不安が強い場合は精神科医に相談し薬物療法を検討
睡眠障害・夜間の不穏
- 日中に軽い運動や外出を取り入れる
- 部屋の照明を調整し、夜は落ち着ける環境にする
- 眠れないことを責めない
家族が疲弊しないための工夫
介護を一人で抱え込まない
家族がすべてを担おうとすると、介護うつや健康問題につながることがあります。
- デイサービスやショートステイを活用
- ケアマネジャーに相談して在宅支援を調整
- 訪問診療・訪問看護で医療サポートを受ける
精神科訪問診療の活用
認知症の不眠・興奮・抑うつ・幻覚などの周辺症状は、精神科の専門医が対応できます。
- 薬の調整や副作用のチェック
- 家族への接し方のアドバイス
- 介護ストレスの軽減
自立支援医療制度を使えば、精神科訪問診療の自己負担を3割→1割に抑えられる場合があります。
家族自身のメンタルケア
認知症の不眠・興奮・抑うつ・幻覚などの周辺症状は、精神科の専門医が対応できます。
- 家族の会や介護者(認知症)サロンに参加
- 心療内科や精神科で相談する
- 自分の趣味や休息時間を確保する
医療制度を知って安心につなげる
精神科での外来・訪問診療にかかる自己負担が3割から1割へ軽減される制度です。
認知症に伴う周辺症状の治療にも適用されることがあります。

医療費が高額になった場合、一定額を超えた分が払い戻される制度です。
在宅医療を続ける上で、経済的な負担を減らす大切な仕組みです。
まとめ:家族が安心して支えるために
- 認知症は病気による変化であり、否定や叱責は逆効果
- 安心感・生活リズム・役割を大切にすることで穏やかに過ごせる
- BPSDが出たら、早めに医療機関へ相談を
- 訪問診療・介護サービス・制度を活用して家族の負担を軽減
家族が無理をせず、本人と良い関係を保つことが、長く続く介護を支える大切なポイントです。
当院では、精神科医による訪問診療やBPSD対応のサポート、家族向けの相談も行っています。
「接し方がわからない」「介護に限界を感じている」とお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。