自立支援医療の「上限額」はこう決まる!仕組み・注意点・よくある誤解まで精神科医が徹底解説

精神科・心療内科への通院を続ける上で、多くの方の経済的な支えになるのが「自立支援医療(精神通院医療)」という制度です。
この制度を利用すれば、医療費の自己負担が3割 → 1割に軽減されるだけでなく、毎月の負担に“上限額”が設けられるため、それ以上支払わなくてよくなります。
しかし、この「上限額」がどう決まるかは、意外と複雑です。
「働いていないのになぜ5,000円?」「同じ病気なのに他の人より上限が高いのはなぜ?」という疑問を持つ方も少なくありません。
この記事では、制度の仕組みから計算の考え方、定年後や無職でも上限が高くなる理由、世帯分離による見直し方法までを、わかりやすく解説します。
1. 自立支援医療とは?|通院治療の自己負担を大幅軽減できる制度
自立支援医療(精神通院医療)は、精神疾患などで継続的な治療が必要な方の経済的負担を減らすための公費制度です。
- 通院医療費が3割→1割に軽減される
- 毎月の自己負担に「上限額」が設けられ、それ以上の支払いは不要
- 診察料・薬代・血液検査・訪問看護など通院に関連するほとんどの費用が対象
うつ病・双極性障害・統合失調症・発達障害・不安障害・認知症・てんかんなどが主な対象疾患です。

2. 上限額は「世帯の所得」によって決まる
最も重要なポイントは、上限額は「本人の収入」ではなく「世帯全体の課税状況」で決まるということです。
ここで言う「世帯」は、同じ健康保険に加入している家族単位で判定されます。
つまり、本人に収入がなくても、配偶者や子どもに所得があれば、それが判定基準に含まれるのです。
3. 所得区分ごとの自己負担上限額一覧
埼玉県の自己上限額については下記の通りです。
(自己上限額は厚生労働省の基準を基にしており、自治体により若干異なります)。
| 区分 | 世帯の課税状況・年収目安 | 月ごとの上限額 | 備考 |
| (1) 生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 | 全額公費負担 |
| (2) 低所得① | 年金のみ・所得80万円以下など | 2,500円 | 重度かつ継続で2,500円 |
| (3) 低所得② | 非課税だが②以外 | 5,000円 | 重度かつ継続で5,000円 |
| (4) 中間所得① | 市民税3.3万円未満(年収約290〜約400万円) | 上限なし | 重度かつ継続で5,000円 |
| (5) 中間所得② | 市民税3.3万〜23.5万円未満(年収約400〜833万円) | 上限なし | 重度かつ継続で10,000円 |
| (6) 一定所得以上 | 市民税23.5万円以上(年収約833万円〜) | 自立支援対象外 | 重度かつ継続で20,000円 |
※「重度かつ継続」とは、長期治療が必要な場合や、高額薬剤(LAI製剤(持効性注射剤)など)を継続使用する場合です。
埼玉県|自立支援医療制度(精神通院医療)について
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0604/seishintuuin/index.html
4. 定年退職後・無職でも上限が5,000円や10,000円になる理由
ここが一番よくある“つまずきポイント”です。
「今は働いていないのに、なぜ非課税世帯にならないの?」という疑問の答えは、次の3つに集約されます。
①年金にも税金がかかっている
公的年金は「雑所得」として課税対象です。
特に 年金収入が年120万円以上(65歳以上) になると、住民税が課税されるケースが多く、結果的に「課税世帯」となります。
👉 例:
- 年間の国民年金・厚生年金・企業年金などが合計150万円 → 課税対象 → 上限は5,000円または10,000円
② 同じ健康保険の世帯に課税者がいる
本人に収入がなくても、同じ健康保険に加入している家族(配偶者・子ども)が課税されていれば「課税世帯」として判定されます。
👉 例:
本人:専業主婦(収入ゼロ)
配偶者:年金で課税 → 世帯として「一般1」または「一般2」に該当 → 上限5,000〜10,000円
③ 不動産・投資収入などがある
給与がなくても、家賃・株式・利子などの収入があると住民税が発生し、課税世帯になります。
この場合も同様に、上限が高めに設定されます。
④ まとめ
「今働いていない」「収入が少ない」と思っていても、
- 年金
- 家族の所得
- 資産収入
などが原因で課税対象になっているケースがほとんどです。これが、上限が5,000円・10,000円になる理由です。
5. 世帯分離で上限が下がる可能性がある
「本当に自分は低所得なのに、家族の収入で上限が上がってしまっている」場合、“世帯分離”という方法で改善できるケースがあります。
住民票上の世帯を分けて、本人だけの課税状況で判定してもらう手続きのことです。
例えば、年金受給の配偶者と世帯を分ければ、本人単独で「非課税世帯」として認定される可能性があります。
- 健康保険も別世帯にしないと意味がありません(同じ保険なら「同一世帯」とみなされる)
- 保険料が高くなる、扶養控除が外れるなどデメリットもあるため、慎重な検討が必要です
- 実行前に必ず役所の福祉課や保険課で相談しましょう
👉 正しく行えば、「上限10,000円 → 2,500円」に下がるケースも実際にあります。
6. 上限額の適用範囲と注意点
クリニック・薬局・訪問看護など、同月にかかったすべての自立支援対象費用を合計して上限が適用されます。
たとえば、診察料5,000円+薬局2,000円=7,000円で上限5,000円の場合、超過分2,000円は支払い不要です。
自立支援医療は1年ごとの更新制です。所得や家族構成が変わった場合、次回更新時に上限が変わることがあります。
7. よくある誤解Q&A
8. まとめ―「収入ゼロでも上限が高い」はよくあること
- 上限額は「本人の年収」ではなく「世帯全体の課税状況」で決まる
- 無職でも、年金や家族の収入などで課税されていると5,000円・10,000円…になる
- 条件次第では世帯分離などで上限を下げられる可能性がある
- 不明な点は、医療機関・自治体の窓口に必ず相談を
「どうして自分だけ高いのか」「本当にこれで正しいのか」と感じたときは、制度の仕組みを知ることが第一歩です。
厚生労働省|自立支援医療(精神通院医療)制度
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/index.html
埼玉県|自立支援医療制度(精神通院医療)について
https://www.pref.saitama.lg.jp/a0604/seishintuuin/index.html

