精神科で甲状腺ホルモンを調べるのはなぜ?その本当の理由を解説します!

「精神科なのに血液検査をするの!?」「甲状腺ホルモンって、内科で調べるものじゃないの?」
精神科を初めて受診された方の中には、そう疑問に思われた経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
実際、精神科で血液検査を行うのは珍しいことではありません。特に「甲状腺ホルモン」の検査は、多くの精神科クリニックや病院で広く行われています。
その理由は、「こころの不調」と「からだの異常」は別物ではなく、深く結びついているからです。
たとえば、うつ症状や不安、イライラ、気分の波、集中力の低下など、こうした「こころのサイン」が、実は甲状腺の異常から起きているケースも少なくありません。
もしもその根本的な原因が見落とされたまま、心の病気としてだけ扱われてしまったら、治療が思うように進まず、つらい状態が長引いてしまうこともあります。
この記事では、精神科で甲状腺の検査を行う理由と、「こころ」と「ホルモン」の知られざる関係について、わかりやすくお伝えします。
甲状腺ってどんな臓器?
甲状腺は、喉ぼとけのすぐ下にある小さな蝶の形をした臓器で、私たちの体のエネルギー代謝をコントロールする「甲状腺ホルモン(T4、T3)」を作り出しています。このホルモンは、全身の細胞の働きを活性化させる役割を担っており、代謝・体温調整・心拍・腸の動き・筋肉の動きなど、ほとんどすべての生命活動に関わっています。
そして実はこの甲状腺ホルモン、脳の働きや感情、意欲、集中力といった「こころの動き」にも深く関わっているのです。だからこそ、甲状腺機能に異常があると「精神的な不調」として症状が出てくることがあります。
甲状腺異常で現れる「こころの症状」
甲状腺の病気には大きく分けて2つのタイプがあります。
■ 甲状腺機能亢進症(ホルモンが出すぎている状態)
代表疾患:バセドウ病(Basedow病)
自己免疫の異常で甲状腺が過剰に刺激され、ホルモンが多く出てしまう病気です。
主な症状
・動悸、手の震え、汗が多い、暑がり、体重減少(食欲はある)
・不眠、焦燥感、イライラ、怒りっぽさ、不安感
・注意散漫、落ち着きのなさ
→ 精神科では「不安障害」「躁状態」「パニック障害」と間違われやすいこともあります。
■ 甲状腺機能低下症(ホルモンが不足している状態)
代表疾患:橋本病(慢性甲状腺炎)
こちらも自己免疫による疾患で、甲状腺が徐々に破壊され、ホルモンが作れなくなる病気です。
主な症状
・だるい、眠い、体がむくむ、寒がり、便秘、体重増加
・抑うつ気分、無気力、集中力の低下、記憶力の低下、動作が遅くなる
→ 精神科では「うつ病」「認知症」「適応障害」などと間違われることがあります
見逃されがちな「ホルモン性のこころの不調」
甲状腺の病気は、特に女性に多く、20〜50代の働き盛りや子育て世代に多く見られます。
精神的な症状が主に現れるため、最初に精神科に来られる方も少なくありません。
たとえば「うつ病の薬が全然効かない」と思っていたら、実は甲状腺機能の低下が原因だった。
そんなケースも実際にあります。
だからこそ、精神科でも身体の検査が必要なのです。
精神科の治療をより確実に進めるために
甲状腺の状態を確認することで、以下のメリットがあります。
▽精神症状の背後にある身体的な病気の見逃しを防ぐ
▽誤診や過剰投薬のリスクを減らす
▽ホルモン治療で改善が見込める場合、迅速な対応が可能になる
▽「身体に問題なし」と分かることで、精神療法・薬物療法に安心して臨める
検査では「TSH(甲状腺刺激ホルモン)」「FT4」「FT3」などを血液から測定します。
異常が見られた場合は、内分泌内科と連携して専門的な治療へつなげます。
まとめ
精神科は「こころを診る診療科」ですが、実際には「こころの不調を引き起こす、からだの要因」を見極めることが大切です。甲状腺ホルモンは、まさにその代表格ともいえる存在です。
「精神科なのに血液検査はなぜするの?」と疑問に思われた方も、そこには医学的な根拠と、あなたの不調を正確に理解しようとする姿勢があるのです。
当院では、こころとからだを切り離さず、どちらも大切にした診療を心がけています。
「なんとなく調子が悪い」「気分の波が激しい」など、どんなことでもお気軽にご相談ください。
参照
働く女性の心とからだの応援サイト 甲状腺の病気