同じものを繰り返し見る大人たち―その行動の理由とASDとの関係―

「またあの動画を見ている…」「セリフまで覚えているのに、なぜ何度も?」
そんなふうに、家族として見ていて不思議に思ったり、時には少し心配になったりしたことはありませんか?
あるいは、「他のことをすればいいのに」「そんなの暇つぶしでしょう」と感じたことがあるかもしれません。
ですが、そうした「繰り返しの行動」という行動の奥には、本人にとってとても深い意味や必要性があることがあるのです。
特に大人の自閉スペクトラム症(ASD)の方にとっては、それが「安心する」「頭を整理する」「気持ちを落ち着ける」ための方法の一つとなっていることも珍しくありません。
この記事では、ASDを持つご家族が同じものを繰り返し見るとき、そこにどんな意味があるのか、そしてご家族としてどう理解し、どのように寄り添うことができるのかについてお話しします。
「同じものばかり見る」ことは、ASDの特性のひとつ
自閉スペクトラム症には、「同じことを繰り返す」「興味の幅が狭く深い」「日常の中で決まったやり方を好む」といった傾向が見られることがあります。
たとえば
▼毎朝同じ道順で通勤する
▼食べるものや並べ方に強いこだわりがある
▼特定の映像、音、台詞を何度も繰り返し見る/聞く
これらは、本人にとって「変わらないこと」が安心材料であることを示しています。
日々の生活の中で予測不能なことが多いと、ASDの方は強いストレスを感じやすくなります。その中で、「結末を知っている映像」「内容を把握している音声」は、予測可能で安全な世界として機能するのです。
「ただの癖」ではない、繰り返しの意味
家族から見ると、繰り返し動画を見る姿は「時間の浪費」に見えるかもしれません。
ですが、ASDの方にとってはそれが感覚の調整や感情の回復の手段であることがあります。
▼不安を感じたときに安心できる音や映像を求めている
▼初めて見た時に理解できなかった情報を、繰り返し見ることで補っている
▼自分の内側を整えるための、いわば“静かなセルフケア”としての役割がある
このように、繰り返しは決して無意味な行動ではなく、その人なりの回復や整理の方法の1つなのです。
ご家族が陥りやすい誤解
家族の立場としては、「また同じの?」「何かもっと有意義なことをすればいいのに」と言いたくなる気持ちもわかります。
しかし、このとき気をつけたいのは、それをやめさせようとすることで、逆に本人の安心や秩序を奪ってしまうことがあるということです。
無理にやめさせようとしたり、「おかしいよ」と否定的に言ってしまったりすると、本人は不安を強めたり、自分が否定されたと感じてしまうこともあります。
たとえ理解できなくても、「どうしてそれが好きなの?」「何が安心するの?」と聞いてみる姿勢が、ASDのある方との関係性を深める鍵になります。
支援のヒント:行動の“背景”を見る視点を持つ
「繰り返し動画を見る」という表面的な行動だけでなく、その前後にどんな気分や出来事があったのかを観察することで、「本人がストレスを感じていた」「疲れていた」「対人関係で消耗していた」などのサインを読み取るヒントにもなります。
行動自体を止めさせようとするよりも、
「今、疲れているのかも」「安心したいタイミングなのかも」と、本人の内面を想像してみることが、家族としての大きな支えになります。
まとめ
同じものを繰り返し見ることは、“安心と回復”の時間かもしれない
大人のASDの方が同じ動画を何度も見るという行動には、その人なりの秩序・安心・意味が宿っています。
それは、日々の予測不能な世界に立ち向かうための「整える時間」であり、「心を守る工夫」なのです。
家族として、すべてを理解できなくても構いません。
ただ、「そこには意味があるのかもしれない」と一歩想像を向けること。それだけで、本人にとっては大きな安心になります。
大人のASDは見えにくいことが多いからこそ、「なぜこんな行動をするのか」ではなく、「その行動の裏には何があるのか」と考える視点を、ぜひ持っていただければと思います。
参照
大人になって気づく発達障害 ひとりで悩まず専門相談窓口に相談を!
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202302/1.html
独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所
発達障害教育推進センター
発達障害とは 自閉症